乳房は乳腺と脂肪組織からできていますが、乳癌はその乳腺にできる癌です。
乳腺は、乳頭(乳首)を中心にして放射状にのびる乳管と、その先にブドウの房状につながっている小葉とに分かれます。
小葉は乳汁をつくるところで、乳管は小葉でつくられた乳汁を乳頭まで送り届ける管です。
乳癌は、乳管と小葉のどちらにもできますが、乳癌の90%は乳管にできる乳管癌と呼ばれるもので、小葉にできる小葉癌は10%ぐらいとされます。
乳癌には、癌細胞が乳管の中にとどまり、癌発生の初期の段階とされる非浸潤癌と、癌細胞が乳管を越えて食い込んでいる (浸潤といいます)浸潤癌に分類されます。
乳管の外にまで食い込んで行くと、血管やリンパ管を通じて、 全身に癌細胞が広がる可能性が出てきます。
この乳管癌と小葉癌、さらに浸潤癌と非浸潤癌を組み合わせて、 大きく4種類、すなわち浸潤性乳管癌(invasive ductal carcinoma, IDC)、浸潤性小葉癌(invasive lobular carcinoma, ILC)、非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ, DCIS)、非浸潤性小葉癌(lobular carcinoma in situ, LCIS)に分類されますが、 乳癌の80-90%は浸潤性乳管癌です。
正常な乳腺細胞から癌化していく過程は、乳房の細胞の遺伝子的な変化から始まると考えられています。乳癌の90%以上を占める乳管癌の場合、先ず、第1段階では、この変化が細胞の成長を刺激し、正常細胞の過剰な増殖(乳管過形成、usual ductal hyperplasia, UDH)を引き起こします。そして、2段階目の過程で、細胞が変異をはじめ、正常でない細胞(異型細胞、atypical cells)に変化します。この変化の段階を異型乳管過形成(atypical ductal hyperplasia, ADH)と呼び、癌化の前段階(前癌状態)、または良性と悪性の境界の病変となります。非浸潤性乳管癌(DCIS)はこの過程の3段階目にあたり、癌化した異常な細胞が乳管で増殖するが、乳管内に留まっているという状態です。第4段階では、癌細胞の増殖と悪性化が進み、浸潤性となり、乳管を越えて周囲の間質などに浸潤すると浸潤性乳管癌(IDC)に進展します。 現在までの研究では、1個の癌細胞が1cm大に成長するには、通常7-10年程度かかると推測されています。
乳癌は女性にとって最も身近な病気と言えます。 日本では、乳癌罹患率は年々増加しており、2012年の統計では、女性の癌罹患率の第1位で、女性の癌罹患全体の20%を占め、毎年7万人以上が罹患しています。また、乳癌死亡数は、毎年1万人以上(2013年の統計では13000人)で、女性の癌死亡の第5位を占めています。
日本では、2014年の統計では乳癌の生涯罹患率は9%で、11人に1人が乳癌になると推定されています。欧米では生涯罹患率は5-10人に1人とされ、日本も欧米とほぼ同じ程度になって来ています。
乳癌は年齢の高い女性の癌と思われがちですが、若い女性にとっても決して無縁の病気ではなく、日本では35才をすぎると急に発症率が上昇します。
日本では、乳癌の年齢別発症率のピークは40歳代後半と60-70歳代にあり、欧米と比べると、比較的若い女性に多いのが特徴です。